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海の中の水流
海流による水流
池に溜まった水のようにじっと動かないでいるように見える海水も、実はパワフルに複雑な流れを作っています。
地球をとりまく海流の中でも最大規模に属する黒潮の流れは深さ約200m以上、幅約100km以上にわたって、時速4〜9kmで一秒間に5,000万トンの海水を運んでいます。時速9kmという早さは秒速に直すと2.5m/秒というものすごい早さです。
サンゴ礁では周辺を高いリーフに囲まれて、このリーフが堰の役割をしているので、外洋の海流がそのままサンゴ礁に入り込んでくるわけではありません。干潮時にはリーフは水面直下までせり上がり、外洋の流れをシャットアウトして、満潮時に水かさが増したときに外洋の水がどっと流れ込む形です。
潮の干満による水流
もう一つの流れをつくる大きな要因は潮の干満です。先も述べたようにサンゴ礁は、その周辺を大きなリーフの堰に囲まれた池のような構造をしていますが、堰の部分には何カ所か外洋との水の通路となる切れ目が入っています。干潮時には水門を開けたダムのように、切れ目からリーフ内の水が流れ出し、満潮時には逆に水が流れ込みます。
この潮の干満による流れは、リーフの内側の複雑な迷路のような地形の間をぬうように流れ、サンゴ礁全体に複雑でパワフルな水流を作り出します。
時間による流れの変化
サンゴ礁の水流は一日の中で、潮の干満と密接したリズムをつくっています。
簡単に表現すると、潮が引きはじめるとリーフの外へ水が流れ出す事による強い水流が生じ、最干潮時にはその流れがピッタリと止まります。潮が満ちはじめると今度は逆にリーフ内に外洋の水が流れ込む強い水流がおこり、最満潮時には潮の干満による流れは止まるが、外洋の海流がリーフの上を乗り越えてサンゴ礁に流れ込むというリズムです。
実際には風の影響や地形の関係で、場所によってかなりの差異がありますが、サンゴ礁の流れは決して一定ではなく、常に変化していると言うことです。
流れの強さと生物層の関係
サンゴ礁内の水流はその地形によって流れの強さが大きく異なります。水路のような流れの強い場所から内湾の流れがほとんど無いような場所、それぞれの場所にそれぞれの環境に適した生物が生息しています。
サンゴの仲間は魚のように自分で移動することが出来ないので、その場所のもつ光の量や水流等といった環境要因に適した生物だけがそこに生息し、環境による住み分けがより明確に分かれています。
例えばトゲトサカは非常に流れの強くなる場所にのみ生息しています。この強い流れは人間が泳ぐことは不可能で、海底の岩につかまっていても水流でマスクがブルブルと震える程の流れです。この強烈な流れの中でトゲトサカは幹を力強く直立させてポリプを全開にしています。
つまりトゲトサカは褐虫藻を共生させておらず、ポリプによって微細なプランクトンを餌にしてエネルギーを得ているのですが、自ら移動することが出来ないトゲトサカにとっては、水の流れが唯一の餌を運んでくれるベルトコンベアーであって、より流れが強い場所ほど沢山の餌を捕まえることが出来るという事でしょう。潮の干満によって水流が弱くなる時間にはトゲトサカは小さくしぼんで、流れが強くなる時間をじっと待っているようです。
このトゲトサカを流れのほとんど無い場所に移植しても、すぐに溶けだして死んでしまいます。このように水流はサンゴの生息環境において非常に重要な要素で、それぞれの種類に合わせた水流を与えることは非常に大切なことです。
種類別の大まかな生息環境の水流の強さの表を以下に掲載しました。ご参考下さい。
品種名 | 流れの速さ 単位:cm/秒 | 品種名 | 流れの速さ 単位:cm/秒 |
ヤナギカタトサカ | 10〜80 | マキノハヤギ | 40〜80 |
ヤワタコアシカタトサカ | 10〜50 | オオシライトゴカイ | 60〜150 |
ナガレカタトサカ | 40〜100 | コウキケヤリ | 5〜40 |
コルトコーラル | 5〜20 | インドケヤリ | 5〜80 |
ヌメリトサカ | 5〜20 | オオナガレハナカンザシ | 60〜200 |
チヂミトサカ類 | 20〜100 | キクマメスナギンチャク | 10〜120 |
トゲトサカ類 | 60〜150 | イワスナギンチャク | 40〜200 |
スジチヂミトサカ類 | 5〜80 | ディスクコーラルヘアリー | 5〜40 |
カワラフサトサカ | 5〜50 | タマイタダキイソギンチャク | 20〜120 |
トサカウネタケ | 10〜150 | ハタゴイソギンチャク | 20〜100 |
オヤユビウネタケ | 20〜150 | シライトイソギンチャク | 20〜140 |
ウミキノコショートポリプ | 5〜100 | イボハタゴイソギンチャク | 20〜100 |
ウミキノコロングポリプ | 20〜80 | ヒメニチリンイソギンチャク | 40〜80 |
ウミキノコホワイトポリプ | 5〜100 | スズナリイソギンチャク | 40〜80 |
ウミキノコフラワーポリプ | 5〜50 | オレンジスポンジ | 5〜60 |
ブルームウミアザミ | 5〜120 | ブルースポンジ | 10〜30 |
ウミアザミ | 60〜200 | レモンスポンジ | 10〜60 |
イタアザミ | 20〜80 | パープルスポンジ | 5〜20 |
イタアザミホワイト | 20〜80 | ベニボヤ | 20〜100 |
ウミアザミホワイト | 20〜80 | ホヤ sp. | 5〜20 |
コフキウミアザミ | 20〜80 | ヒメジャコ | 10〜150 |
ウミアザミ sp. | 40〜80 | シラナミガイ | 10〜150 |
シロスジウミアザミ | 40〜80 | ヒレジャコ | 20〜100 |
ハダイロウミアザミ | 5〜30 | コケコロモガキ | 5〜80 |
ツツウミヅタ類 | 5〜120 | トサカガキ | 5〜40 |
スターポリプ | 20〜80 | ミズイリショウジョウガイ | 5〜40 |
水槽内での理想的な水流とは
水槽の中で理想の水流を再現することは、意外に難しいものです。
良い水流を水槽内に再現する最も大きなポイントは「全体的な力強い流れをつくる」ということだと思います。ポンプの吹出口から出る細い局所的な流れではなく、水槽全体の水が回るようなトルクのある流れです。
例えばあなたの水槽の中身をそっくりそのまま海の底に置いた所を想像してみて下さい。それこそが文字どおり「理想的な水流」です。水流はレイアウト全体を均一にまんべんなく流れていきます。例えばライブロックの先端にレイアウトされたトサカには、根の部分からポリプの先端まで均一な流れがあたり、ライブロックの岩組みの隙間に入り込んだ流れは、そこで停滞することなく、後から押し寄せる流れに押されて、出口を求めて迷路のような岩組の間を縦横無尽に走り回ります。
最干潮時に流れが止まり、潮が満ちはじめると、今度は逆方向の流れが押し寄せて、ライブロックの淀みに溜まった堆積物を吹き飛ばすように流れていく・・・。これが何より理想的な水流の形です。
出来るだけこのような自然の状態に近い全体的な力強い流れを作り出すことが大切です。
水槽での水流作りのコツ
小さめのパワーヘッドを多数付けるより大きい物を数少なく
水槽全体を循環させるメインとなる水流ポンプを用意します。メインポンプはエーハイム等の水中ポンプよりも、レイシーのPシリーズ等の水上に設置するタイプの方が、パワーも強く熱の発生の問題が少なく、水槽内の美観を損ねることも少ない理由から適しているでしょう。
水流用ポンプは水槽の上端に設置した方が、全体的な流れが出来る
メインポンプは水槽コーナーの上端に設置して、水面を這うように対角線上のコーナーに当たるような設置方法が、最も簡単に全体的な流れが出来るようです。途中でライブロック等の障害物に流れがぶつかると、そこで乱流を起こして綺麗な全体流が出来ません。コーナーに直接ぶつかった水流はガラス面に添いながら、全体的に渦を巻くような大きな流れが出来るように角度を調整します。 充分なメインの水流が出来たところで、必要に応じて補助のポンプを使用して、水槽全体にまんべんなく水流が行き渡るように調整します。
タイマーで流れの強弱をつくり、自然のリズムを再現する
一定の決まった水流は、必ず水槽内に淀んだ部分をつくってしまいます。またサンゴは一定のリズムで変化する水流を好みます。 水流ポンプにはタイマーを設置して、6時間毎に1時間30分程度の水流が弱くなる時間を付けてあげると良いでしょう。 水槽内の水流は、水槽の形状や岩組の形によって、理想的な水流ポンプの設置方法は大きく異なってきます。上記は全体に通じる水流作りのセオリーをご案内しましたが、実際にご自分の水槽に合わせた方法を試行錯誤してみて下さい。