未分類

海水魚の初期餌料

このページは当社の創業者である阿出川(故人)が当社の理念の元、存命当時には難しかった海水魚の仔稚魚育成(繁殖)について広くご理解いただきたいという思いで作成した記事です。
この記事が、みなさまのお役に立てれば幸いです。  

シオミズツボワムシ培養の基本

アルテミア(ブラインシュリンプ)について

シオミズツボワムシ培養の基本

1.「シオミズツボワムシ」について

シオミズツボワムシ(以下ワムシ)は、体長約100ミクロン程の海や河口に棲む小型の動物性プランクトンで、主に水産養殖の現場で卵から孵化したばかりの仔稚魚にかかせない大切な餌として利用されています。
植物性プランクトンであるクロレラを餌として増殖するワムシは、マリンアクアリュウム(特にインバーティーブリートタンク)において、多くの種類のハードコーラルやソフトコーラル、また二枚貝やその他様々なプランクトン食の生物達の自然の海での本来の食べ物です。

2.ワムシ培養の準備・・・・・あらかじめ用意しておくもの

1.培養槽
20L〜50L程度の容器(ポリバケツや60cm水槽でも可)大量に培養するにはより大型の培養槽で。大きい分にはいくら大きくてもかまいません。

2.エアーレーション
培養槽中央にエアーストンを設置。水面が盛り上がらない程度のエアーレーションを行います。

3.培養水
塩素を中和した水で溶かした人工海水(海水水槽で使用していた海水でも可)通常の海水でも培養は可能ですが、海水7:淡水3程度に希釈した海水の方が、ワムシの増殖率が高くなります(もともとワムシは河口等の淡水と海水が入り交じるような環境に生息するため)

4.プランクトンネット
培養水の水換えや収穫の際に培養水からワムシを濃し分けるためのネット。目合いが70ミクロン程度のものが使いやすいでしょう。

5.計数用ピペット及びルーペ
ワムシの数を数えるための必需品。ピペットは0.5cc容量程度のものが使いやすいでしょう。

6.ワムシの餌
クロレラ、濃縮クロレラ、パン酵母、油脂酵母等が用いられます。いずれも水産養殖の餌料メーカーから販売されています。どの餌を用いて培養を行うかは、一長一短でそれぞれ大まかに下記のような特徴があります。

  • クロレラ
    生きたクロレラはワムシの最高の餌になりますが、クロレラの培養を行うためにはかなりのスペースを屋外に用意する必要があり、一般的には無理でしょう。
  • 濃縮クロレラ
    ワムシの餌用としてクロレラを濃縮した濃い緑色のドロドロの液体。安定して培養が出来、小規模のワムシ培養には最も向いている餌料だと思います。冷蔵庫で保存して1ヶ月程度しか持たないのが難点です。濃縮クロレラで培養したワムシは給餌前に栄養強化が必要です。
  • パン酵母
    安価ですが、濃縮クロレラに比べてワムシの増殖率に若干のばらつきがあるのが難点です。水産養殖の現場ではクロレラが品薄の時の緊急用、またクロレラの補助餌料として用いられていることが多いようです。パン酵母で培養したワムシは給餌前に栄養強化が必要です。
  • 油脂酵母
    パン酵母に不飽和脂肪酸等の不足栄養素を加えたワムシ用餌料で、給餌前に栄養強化の必要が無い点が優れていますが、油脂酵母単体でのワムシの培養は若干不安定になる欠点があるようで、クロレラと併用して用いた方が良いでしょう。
    ワムシの栄養強化を行う際はこの油脂酵母を用いることが多いです。

3.ワムシ培養の基本

ワムシの培養といっても決して難しいことではなく、基本的な培養作業は下記の4つの作業の毎日の繰り返しとなります。

  1. ワムシの個体数の計数(毎日)
  2. クロレラの給餌(毎日)
  3. 定期的な換水(3〜4日毎)
  4. 培養密度の調整(増えすぎたワムシの間引き)

3-1.ワムシの個体数の計数

ワムシ個体数の計数の意味

なにしろワムシは小さな生き物なので、魚や無脊椎のように、その姿、形からワムシの健康状態を判断することは出来ません。したがって状態の把握には、単位水量(ここではメスピペットの容量0.5cc)の中に泳いでいるワムシの数を数えて、「前日に比べてどのくらいワムシの数が増えているか」ということで、ワムシの状態を把握します。通常ワムシは1日で1.2倍〜1.6倍に増殖しますが、基本的にこの増殖率が高いほどワムシの状態が良く、良い環境が整っているということができます。また増殖率が低ければ、餌のクロレラの給餌量が少ない、培養水が汚れている(換水を行う)、水温が低い、溶存酸素が少ない(エアーレーションを強くする)培養密度が高すぎる(間引きを行う)等々何らかの良くない要因があるはずなので原因をつきとめ対応します。

ワムシの数の数えかた

0.5mlメスピペットを培養槽に浸け、指でピペットに蓋をして、培養水を抜き取ります。ピペットを明かりにかざして、ルーペで0.5mlの中にいる全てのワムシの数を数えます。
こうして数えたワムシの数は、毎日ノートに記録しておくと良いでしょう。
一般的にワムシは0.5mlあたり約75個体〜150個体くらいの密度がもっとも効率よく培養を行うことが出来ます。150個体/0.5ml以上では、突然数が激減したり、場合によっては全滅というリスクがあるので、増殖分はこまめに収穫して、常に密度を75個体/0.5ml〜150個体/0.5mlの間に保つことが大切です。{詳しくは 3-4.培養密度の調整 をご覧下さい}

3-2.クロレラの給餌

クロレラについて

ワムシ培養には通常、植物性プランクトンの海産クロレラ(ナンノクロロプシス)を餌として与えますが、この海産クロレラは維持管理に巨大な培養槽が必要となるので、家庭で培養を行うには、淡水産のクロレラを極度に濃縮し不足する栄養素を補い、さらに油脂で小さなマイクロカプセルの形にしたワムシ専用の培養餌料である濃縮クロレラが最適です。
クロレラは常時冷蔵庫に保存(冷凍はカプセルが壊れるので避ける)して、1カ月以内にご使用下さい。

クロレラの与え方

ワムシの餌となるクロレラは、必ず毎日(できれば1日2回に分けて)ワムシに与えます。与え方は、規定量をピペットで計り取りそのままワムシ培養槽に与えます。

クロレラの給餌量

ワムシに与える濃縮クロレラの量は、「培養水3Lに対して濃縮クロレラ1cc」(メーカーによって給餌量が異なる場合があります。詳しくは各餌料の説明書をご覧下さい。)の計算量を基本となるベース給餌量として、それぞれの培養槽の水量に応じて算出した量のクロレラを毎日できるだけ同じ時間に培養槽に与えます。

給餌量の調整

上記に示した「培養水3Lに対してクロレラ1cc」の給餌量はあくまで、基本的な計算方法でこの計算でもほとんどの場合は問題なく培養が行えますが、さらに効率的に給餌を行う為に、下記の要領で給餌量の調整を行います。

  • 適正な給餌量の見極め方
    クロレラは濃い緑色をしています。培養槽にクロレラを与えた直後は、その緑色のために培養水も濃い緑色となり、時間がたってクロレラがワムシに食べられて少なくなっていくに従ってこの緑色が薄くなってきます。この色の変化によってクロレラの給餌量が多いか少ないかをある程度判断することができます。
    簡単な目安としては、1度クロレラを給餌して、次回の給餌の前に培養水をコップで掬って、うっすらと緑色が残っている程度が適正な量といえます。色濃く緑色が残っていれば、給餌量が多すぎて、まだたくさんのクロレラが培養槽に残っている証拠です。クロレラは長期間培養水中にあると鮮度も落ちてくるため良くありません。またほとんど色がなければ給餌量が少ないので、量を増やす必要があります。
  • ワムシの増殖率を上げるには
    ワムシは基本的に餌のクロレラが多いほど増殖率も高く、どんどん増えていきます。増殖率を高め早期に個体数を増やすためには、一日の給餌の回数を2〜3回分けて、こまめに新鮮なクロレラを与え、常に培養水中のクロレラの数を高く保つことによって、ワムシの増殖率を高くすることができます。
    培養水中のワムシの密度によっても、適正なクロレラの給餌量は変わってきます。1ccあたり20個体の時と300個体の時では当然クロレラの必要量も変わってきます。しかしワムシは、魚のように餌を見つけてそこまで泳いでいって食べるのではなく、自分のいる場所に流れてきた餌を、繊毛という細い毛でひっかけて食べる補食方法のため、培養密度が低いからといって、あまりにクロレラの密度が低いと餌が自分のいる場所になかなか流れてこないで、結局餌が捕まえられずに死んでしまいます。
    従って、培養開始直後などの、ワムシの全体の個体数が少ないときは、最初に規定量「培養水3Lに対して一日クロレラ1cc」をその後の給餌は、規定量の半分程度のクロレラ給餌にとどめ、密度の増加に応じて、給餌量を増やしていく方法が効果的です。

3-3.定期的な換水

ワムシはあまりにも小さく、通常海水魚飼育で行うような濾過が行えないため、培養水を正常に保つため3日〜5日毎に全換水を行う必要があります。

換水のしかた

培養水を添付のワムシ培養ネットを使って、ワムシを濃し取りながら排水します。ワムシは多少ならラフに扱っても死ぬことはありません。濃し取ったワムシは洗面器等に移しておいて、培養槽の壁面についた汚れををきれいに掃除します。新しい海水(海水7:淡水3の希釈水でも可)を培養槽に満たして、濃し取っておいたワムシを培養槽に戻し、クロレラを規定量「培養水3Lに対して一日クロレラ1cc」を加えます。

3-4.培養密度の調整

上記の作業を繰り返すうちにワムシはどんどん増殖を繰り返し、その数が増えていきます。毎日の計数でワムシ密度が150個体/0.5ccを越えるようになったら収穫を行います。収穫する量はあまり一度にたくさん収穫してしまうと次回収穫が行えるまで、またある程度の培養期間が必要となるので、それまでの増殖率を見ながら適切な収穫量を決定します。
たとえば魚の孵化仔稚魚を育てる場合の収穫例を記します。仔稚魚には毎日欠かさずワムシを与える必要があります。仮に50Lの培養槽でワムシ培養を行い、一日の増殖率が1.5倍だった場合を例にして下記のような収穫プランが立てられます。

1日目 120個体/0.5ccが2日目には120個体×1.5倍で180個体/0.5ccに増殖します。

ここから60個体/0.5cc分のワムシを収穫し、収穫後のワムシ密度が120個体/0.5ccこれがまた翌日120個体×1.5倍=180個体/ccというように毎日60個体/cc分のワムシ が継続して収穫できる計算となります。このようにそれぞれの使用計画に合わせて収穫量を導きます。

3-5.収穫の仕方

収穫するワムシの水量を計算します。下記の計算式に現在のワムシのデータをあてはめて計算して抜き取る培養水の量を導きます。
培養槽の水量(L) - [培養槽の水量(L)×収穫後の個体密度/0.5m÷現在の個体密度/0.5m] = 抜き取る水量
前記の収穫プラン例にこの計算をあてはめると50L-(50L×120個体÷180個体)=16.6666・・・・
約17L分のワムシを収穫すれば良いことになります。
計算で導いた抜き取る水量を収穫し、後に述べる給餌の仕方なならって水槽に給餌するか、また必要であれば新しい培養槽の種ワムシとして培養量を増やしていきます。もしワムシの必要量に対して、増殖が間に合わなければ、培養槽の容量を大きくして対応します。また、逆に増殖率が使用量よりはるかに高く、毎日大量のワムシを捨てなければならないときには、培養槽の容量を減らし、無駄な経費や労力をなくすようにします。
収穫で抜き取った分の新しい培養水を加えて、水量を元に戻して、収穫作業は終了します。

3-6.給餌の仕方

収穫したワムシは、先に述べた必須脂肪酸や各種ビタミン等がほとんど含まれておらず栄養価が低いので、魚や無脊椎に給餌する前に、ワムシに「ワムシ栄養強化餌料」または「油脂酵母」を食べさせて、これらの不足栄養素を体内に蓄えた栄養豊かな状態としてから水槽に給餌します。

栄養強化の方法

収穫したワムシを別容器に移して「ワムシ栄養強化餌料」または「油脂酵母」を適量計算してワムシに与えます。このときの環境条件は培養の際と同じく、水温水温は20度〜25度、弱いエアレーションをしておきます。こうして「ワムシ栄養強化餌料」をワムシに与えてから約5時間で、ワムシは十分に「ワムシ栄養強化餌料」を体内に取り込んで仔稚魚に必要充分な餌となります。

給餌の方法

栄養強化したシオミズツボワムシは換水で行ったようにプランクトンネットで培養水を濾しながら排水しワムシだけを濃し取リ水槽へ給餌します。仔稚魚の飼育槽にはシオミズツボワムシを1ccに10匹程度が泳いでいる密度で与えます。密度はワムシを加えた飼育槽の水をピペットに吸い込んで光にかざし、その中にいるワムシの数をルーペを使って数えることで把握出来ます。飼育槽のワムシは仔魚に食べられてどんどん数が減っていくので、最低一日二回はワムシの密度をチェックして、足りなければその分を追加します。

アルテミア(ブラインシュリンプ)について

1.アルテミアとは

鰓脚目 無殻亜目 アルテミア科に属するアルテミア(ブラインシュリンプ)はアメリカ ユタ州のグレートソルトレイク、サンフランシスコ、中国 遼東半島、フランスのセッテ等から産出されます。
乾燥した耐久卵は約30万〜60万個/グラムの重さで海水につけると約24〜48時間で孵化して、0.4mm程のノープリウス幼生が生まれます。
アルテミアの幼生は、動物性プランクトンを主食とする魚や稚魚にとって最高のご馳走です。特有の細かな動きは魚を強く誘惑し、また配合餌料のように水中に溶けて水質を悪化させることがないメリットもあります。特に配合餌料に餌付いていない魚や小さな稚魚への餌料として、非常に優れた特性を兼ね備えています。
アルテミアの卵を選ぶコツは孵化率の高い物を選ぶと言うことです。粗悪品の中には孵化率が50%を下回る物もあるので注意が必要です。

2.アルテミアの生態

アルテミアは雄と雌が受精する有性生殖でも、メスのみの単易生殖でも繁殖することが出来ます。1回の産卵数は120ヶ程度で、3日に1回程度の間隔で産卵を繰り返します。この産卵には耐久卵を生む卵生と、グッピーのように母親のお腹の中の卵が出産の際にノープリウスに孵化する卵胎生の2つの形があります。
耐久卵は一度乾燥された状態を経ないと孵化しない性質があります。乾期には水が干上がってしまうような湖に棲むアルテミアは、水が干上がる前に耐久卵を残すことで、次の雨季まで種を保つことが出来る訳です。
耐久卵は、水につけるとその刺激で約24〜48時間で孵化を開始します。最も早く高い孵化率を得るための条件としては、水温29度〜30度、pH8程度、ある程度の光が当たる条件です。孵化したノープリウスは孵化後1日程度で餌を取り始め、2週間ほどで産卵を始めます。生体は全長1〜1.5cm程の大きさまで成長します。
自然界でのアルテミアの餌は植物プランクトンや原生動物です。飼育の上ではおからや小麦粉、ビール酵母、米ぬか等を粉末にした物で摂餌、成長が確認されていますが、単体では栄養的に不適切なのか、それらを数種混ぜ合わせた餌料が有効です。

3.アルテミアの利用

3-1.孵化の方法

適当な容器に海水〜1/2に海水を希釈した汽水を張り、水温を28〜30℃に設定して強めのエアーレーションを施します。孵化させる卵の密度は水1Lに対して、卵10g程度まで入れても問題ありません。

3-2.給餌の方法

一般にアルテミアの栄養価は孵化直後が最も高く、時間と共にアルテミアの活動によって栄養が消費され栄養価が低くなってしまうので、餌として用いる際には孵化直後のノープリウスを用いることが有効です。
孵化を行った飼育水にはアルテミアの卵殻が混じっていますが、卵殻は稚魚などが食べると消化不良を起こすことが多く、除去する必要があります。卵殻の分離は、エアーレーションを止めると卵殻は水面か水底に集まります。またアルテミアは強い正の走行性を持っているので、光でアルテミアを一カ所に集めて分離することもできます。

3-3.栄養強化

アルテミアの栄養価は卵の産地によっても微妙に異なりますが、総じて海水魚の必須脂肪酸が含まれていない欠点があります。特に生まれたばかりの仔稚魚等にとって必須脂肪酸が必ず必要なのですが、体内では合成することが出来ず、餌として直接外界から取り込むしか方法がないのです。
そこで、魚に与える前にEPAやDHA、各種ビタミン等の栄養が入ったアルテミア用の栄養強化餌料を与え、アルテミアのお腹の中に栄養がたっぷりと入った状態で魚に与える事で完全栄養餌料(餌として必要な全ての栄養素が含まれている事)とすることが出来ます。

-未分類