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場所による環境の違い

〜平久保崎編〜

沖縄県の八重山諸島の玄関口、石垣島。石垣島の一番北に平久保灯台はあります。
写真は、平久保灯台から望む平久保海岸。黄色いエリアが今回調査した海域です。

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サンゴ礁の環境と生物

ひとくちに「サンゴ礁の海」と言っても様々な地形が存在し、それぞれの場所によって、その環境は大きく変化します。例えば遠く外洋を渡ってきた水が直接当たる、外洋に面したリーフエッジとラグーン内の湾奥では、水質も水流も大きく異なり、生息する生物層も全く異なった物となります。 これらを無視して「サンゴ礁に棲む生物」というくくりで、ひとつのタンクに収容することは、生物達にとっては酷で、タンクの環境に合わない生物は衰退してしまいます。

ひとつのタンクの中に、サンゴ礁を構成する様々な環境を同時に再現することは無理な話で、再現したい環境をタンクのテーマとして絞り込む考えが必要だと思います。淡水の熱帯魚飼育でアフリカンシクリッドとエンゼルフィッシュは別々のタンクで飼育するのと同じ事が言えるわけです。 テーマを絞り込むと、生物の選択肢が狭まりレイアウトの自由度が低くなるという欠点がありますが、全ての生物が最高の状態でまとまった美しさは、欠点を補って有り余るものでしょう。

平久保崎の海中景観

平久保崎は石垣島の最北端に位置する海岸です。
広い砂浜の岸から泳ぎ出すと、しばらくはホシズナやタイヨウノスナといった有孔虫の死んだ骨格がメインの黄色みを帯びた砂地が続きます。
数日来降り続いた雨で、地中から大量の雨水が地下水として噴き出しているようで、海水温は20度と冷たく濁っています。
岸から50メートルほど泳ぐとリュウキュウアマモが主体の小規模なアマモ場が見られ、このあたりから点在する岩にミドリイシやハマサンゴの仲間がポツポツ見られるようになります。

白化現象から再生するサンゴ達

この付近のサンゴは1998年の異常高水温による白化現象の影響を大きく受けた様で、死んだサンゴの骨格が藻に覆われている姿が随所に見られます。高水温と過酷な環境に比較的強いハマサンゴやキクメイシの仲間は以前からの姿を留めていますが、ミドリイシの仲間はどれも直径が10cm未満の小さな株で、おそらく1998年以降に新たに着生した群体でしょう。これらの新たに着生した株は、着生時期が揃っているので、種類毎の大きさや着生場所の環境等を広く調査してデーターを得ることで、サンゴの種類毎の成長速度や生息環境を知る貴重なデーターとなりの有効なものとして活用できると思われます。

浅場の砂地のライブロック

この付近の岩はシルト(泥)に覆われお世辞にも見た目に綺麗な景観とはいえません。手で仰ぐようにしてシルトを払いのけると、石灰藻をはじめ緑の海草類、褐藻、小さなケヤリや甲殻類など、意外な生物の多さに驚かされます。
このようなごく浅い砂地に点在するライブロックは意外なことにまさに生物の宝庫です。強力な太陽光線を直に浴びて、また地中からは栄養に満ちた地下水が湧き出ることも多く、新陳代謝が活発な海域と言えるでしょう。不安定で流動的な砂地の中にポツンと点在するライブロックは、これらの生物達にとって貴重な安住の地で、ちょうど砂漠に点在するオアシスのように富栄養環境を好む生物達の豊かな生物層が形成されます。

ハマサンゴのマイクロアトール

さらに100m程沖に泳ぐと巨大なハマサンゴのマイクロアトールが見られるようになります。
ここからは突然大型の熱帯魚達が乱舞する光景に変わり、海の中が賑やかになります。ここでいうマイクロアトールとは直径3〜7mほどの円柱形をしたハマサンゴの群体で、浅場に固着したことから群体が大きく成長する内に、頭頂部が干潮時の海面に達してしまったもので、上方向の成長が出来ず横へ横へと伸びてこの様な形になった物です。
よく考えてみると長い時間をかけてサンゴによって形成されるサンゴ礁の地形の内、代表的な形である環礁(アトール)の出来方と同じ仕組みで、成長の歴史の重みをなるほど納得がいく形状で表しています。
マイクロアトールの内部は大きな空洞になっていることが多く、そこを隠れ家とする沢山の魚達がまわりに群れています。また穴の中を覗くと夜行性のキントキダイやイットウダイの仲間や、大きな穴のあるアトールにはサザナミヤッコ等も住んでいます。写真はマイクロアトールの上にすっぽりと納まるヒメジャコです。

ラグーン

マイクロアトールを過ぎると、いよいよ典型的なラグーンの景観が広がります。水深3〜8メートル、2001年2月4日現在水温22.5℃、透明度は前日までの荒天の影響で20mぐらいでしょう。20〜40cm/sec位の比較的ゆったりした水流で、様々なソフトコーラルの群落が見られます。ハードコーラルは、この場所でも白化現象による被害が随所に見られ、現在生息しているハードコーラルの種類は多くありません。
白化によって死滅したハードコーラルの骨格の上を、成長の早いツツウミヅタやイタアザミの仲間が覆っています。 この場所は水流、水質、光といった生物を取り巻く環境要因において、それぞれ中庸にして平均的な環境で、最もベーシックなリーフタンクのお手本となる海域と言えるでしょう。
水質データについては、出来るだけ詳細で正確な値を得るために、現在環境技術の専門会社に分析依頼をしました。

ラグーンのライブサンド

海底は基本的に砂地で、パウダーの砂に大小のサンゴの骨格の破片が多数混じっています。岸から波打ち際までの砂は、先にも記したとおり黄色みを帯びた有孔虫の骨格が主体の砂ですが、沖に出ると純白のパウダーに変わります。この砂はサンゴの骨格や、サボテングサや石灰藻などの石灰質を持つ海藻、貝殻、甲殻類やウニの殻等のカルシウムで構成されています。 目を凝らしてよく見ると、砂の一粒一粒がいろいろな色や模様を持っています。この広大に広がる砂が、全てこの宝石のような石灰質の破片で構成されていると思うと、サンゴ礁の壮大なカルシウムの循環を実感し、アクアリストならではの感動を覚えます。

砂の上の根

砂地の間に、ところどころ背の低い大小の根が点在します。根は硬い石灰岩で出来たものと、主にスギノキミドリイシ等のミドリイシの死んだ骨格で形成されているものの2タイプに分けられます。ミドリイシの骨格タイプの根は、高さ1mから2mにわたって、棒状の骨格が複雑に絡み合い、小型の魚達に絶好の隠れ家を提供しています。
三次元に絡み合う骨格の根の奥では、無脊椎動物達も独特の生物層をもっています。

根は巨大でも内部はスカスカで、水流が滞りなく流れ、大きな生物は入って来れないので安全で、骨格の合間から太陽光線も入り、多くの生物達にとってとても好都合な場所のようです。
サンゴの骨格で出来た平坦な根に比べて、起伏に富んでダイナミックな形状をもつ、石灰岩のしっかりした根はその部位によって生物層も微妙に異なります。高く岬状に突き出た岩の先端は、光を遮る邪魔もなく、水流もスムーズ、シルトやゴミは少なく、プランクトンが豊富に流れる最高の場所で、様々なサンゴが熾烈な陣地争いに鎬を削っています。
タンク内では特に水流の問題が大きく影響して、各環境要因が全て揃う最高の場所は意外に小さなエリアに限られます。

↑ ラグーンの典型的な光景。ミドリイシとデバスズメ

*平久保崎は時として非常に流れの速い危険な海域になることがあります。泳ぐ機会に恵まれた際は、万全を期した充分な注意をはらって下さい。

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